台湾鐵路2025年6月運賃改定後の賃率・運賃計算方まとめ【日本語版】

台鐵二水駅 きっぷ鉄(運賃規則・収集)

台湾の在来線を運営する「國營臺灣鐵路股份有限公司(国有台湾鉄道株式会社:以下「台鐵」)」における運賃が、2025年6月23日発売分から引き上げとなりました。

長年据え置かれていた運賃水準が大幅に引き上げられただけではなく、運賃計算の考え方自体が根本的に変わっています。

乗車距離が長いほど運賃水準が低くなる遠距離逓減制が、新たに導入されました。遠距離を移動するユーザーにとって運賃引き上げの影響が小さくなるよう、配慮されたとも言えます。

これまでは乗車距離に賃率を乗じれば運賃額を単純に求められましたが、今回の運賃改定によって複雑な算出方法を習得する必要が生じました。台鐵のウェブサイトでは区間ごとの運賃を即座に調べられますが、算出するためのロジックを知っておくと安心です。

支線区間が10kmを超える場合、主線とは全く異なる特殊な計算方法が適用されます。主線と支線をまたがって乗車する場合、別々に運賃計算が必要です。

この記事では、2025年6月に実施された台鐵における運賃改定の概要と新旧の運賃計算方の違いを押さえた上で、主線(縦貫線)および支線ごとの運賃計算の実例を示します。

この記事から分かること
  • 50km以下の区間では運賃改定による値上げ幅が最も大きくなること
  • 支線区間が10kmを超える場合は特殊な段階式運賃計算が適用されること
  • 異級票を利用すれば最低運賃の重複を避けて運賃を節約できること

2025年6月運賃改定の概要・新旧の賃率の違い

台鐵臺中駅きっぷうりば

台鐵における運賃の引き上げが2025年4月に認可され、同年6月23日発売分から実施されました。

報道によれば、今回の引き上げは30年ぶりのことで、運賃の引き上げ幅は概ね26.8%でした。運賃水準が低く抑えられてきたため、2024年には約138億元(約690億円)もの赤字を計上しました。収支の改善が必要であることから、今回の運賃引き上げは妥当でしょう。

今回の運賃改定で特徴的なのが、複雑な運賃制度の導入です。営業キロ1kmあたりの運賃水準を賃率といい、台鐵においては列車種別によって賃率が異なります。従来は列車種別ごとに単一の賃率が適用されましたが、今回の運賃改定によって距離別の賃率が導入されました。

乗車距離が長距離になるにつれて段階的に低い賃率が適用されることから「遠距離逓減制」と呼ばれます。この運賃設定により、近距離ユーザーほど運賃引き上げの影響を強く受ける形です。

運賃改定前の賃率・運賃計算の考え方

2025年6月22日以前に発売された乗車券の運賃計算は、乗車区間に対する営業キロに列車種別ごとの賃率を単に乗じたものでした。従来の種別ごとの賃率は、以下の通りです。

  • 自強号(特急列車):1kmあたり2.27元
  • 莒光号(急行列車):1kmあたり1.75元
  • 復興号・区間車(快速・普通列車):1kmあたり1.46元

例えば、臺中駅・臺北駅間164.6kmを自強号で移動する場合の運賃を算出する式は、以下の通りです。

営業キロ165km x 自強号の賃率2.27 = 375元(小数点以下四捨五入)

運賃計算の考え方がこのように非常にシンプルであるため、運賃計算方を簡単に理解できます。

運賃改定後の賃率・運賃計算の考え方

2025年6月23日以降発売分の乗車券より、新たな賃率が適用されています。

遠距離逓減制の採用

営業キロが50kmを超えると段階的に賃率が低くなる「遠距離逓減制」が適用されるため、乗車区間が遠距離であるほど経済的です。列車種別ごとの賃率は、以下の通りです。

営業キロ1-50km51-100km101-200km201-300km301km-
割引率100%88%83%70%65%
自強号3.392.982.812.372.20
莒光号2.612.302.171.831.70
区間車2.181.921.811.531.42

この賃率表からは復興号は消滅しましたが、列車名に復興号が付く場合は区間車の賃率が適用されます。走行距離別の賃率の刻みは細かく、50kmを超えて100km以下の賃率は12%割引、300kmを超えると35%割引です。

前述した臺中駅・臺北駅間で自強号に乗車した場合の新たな運賃は、500元です。仮に遠距離逓減がない場合559元となるため、遠距離逓減制は遠距離ユーザーほど有利な運賃制度であると言えます。

異級票(乗車券)の導入

運賃改定のもう一つの柱が「異級票(異級乗車券)」の導入です。

列車種別が異なる自強号と区間車を乗り継ぐ場合、従来は列車ごとに乗車券を分割購入する必要がありました。しかし、異級票の導入により、異なる列車種別を乗り継ぐ場合でも、通しで運賃計算された1枚の乗車券を購入可能です。

台鐵におけるきっぷのしくみや買い方に関する基本について、以下の記事にまとめてあります。ぜひご一読ください。

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主線における運賃計算方

自強号台鐵彰化駅にて

主線とは、台湾を一周する縦貫線のことを指します。乗車区間が主線区間で完結する場合の運賃計算は、乗車距離に前述した列車種別ごとの賃率を乗じます。乗車距離が50kmを超え、遠距離逓減制が適用される場合、計算式が複雑です。

ここでは、運賃計算実例を乗車距離別に4例挙げた上で、主線における運賃計算方をご説明します。

新烏日駅・臺中駅間

はじめにご説明するのは、乗車距離が最低乗車距離の10kmに満たない場合の運賃計算方です。

高鐵台中駅の接続駅である新烏日駅・臺中駅間の営業キロは、8.3kmです。最低乗車距離の10kmに満たないため、列車種別ごとの賃率に最低乗車距離の10kmを乗じて整数に四捨五入します。区間車の場合、運賃は以下の通り算出されます。

最低乗車距離10km x 区間車賃率2.18 = 22元(四捨五入後)

臺北駅・基隆駅間

臺北駅・基隆駅間の営業キロは、28.5kmです。遠距離逓減制が適用されない乗車距離50km以下の運賃は、単純に営業キロに賃率を乗じて求めます。計算結果を四捨五入し、整数にします。

営業キロ28.5km x 50kmまでの賃率 = 運賃

列車種別ごとの計算過程については、以下の表を参照してください。

自強号(普通車)

四捨五入後の運賃額は、97元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ28.50.00.00.00.028.5
賃率3.392.982.812.372.20 
金額96.6150.0000.0000.0000.00096.615

莒光号

四捨五入後の運賃額は、74元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ28.50.00.00.00.028.5
賃率2.612.302.171.831.70 
金額74.3850.0000.0000.0000.00074.385

区間車

四捨五入後の運賃額は、62元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ28.50.00.00.00.028.5
賃率2.181.921.811.531.42 
金額62.1300.0000.0000.0000.00062.130

臺中駅・臺北駅間

臺中駅・臺北駅間の営業キロは164.6kmで、50kmを超える分に遠距離逓減制が反映されます。算出するための式は、以下の通りです。

50km x 50kmまでの賃率 + 50km x 100kmまでの賃率 + 64.6km x 200kmまでの賃率 = 運賃

列車種別ごとの計算過程については、以下の表を参照してください。

自強号(普通車)

距離に距離帯ごとの賃率を乗じ、合算した後、四捨五入をして求めた運賃額は、500元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ50.050.064.60.00.0164.6
賃率3.392.982.812.372.20 
金額169.500149.000181.5260.0000.000500.026

莒光号

同様にして求めた運賃額は、386元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ50.050.064.60.00.0164.6
賃率2.612.302.171.831.70 
金額130.500115.000140.1820.0000.000385.682

区間車

同様にして求めた運賃額は、322元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ50.050.064.60.00.0164.6
賃率2.181.921.811.531.42 
金額109.00096.000116.9260.0000.000321.926

高雄駅・臺北駅間

高雄駅・臺北駅間の営業キロは371.4kmで、遠距離逓減制が反映されます。算出するための式は、以下の通りです。

50km x 50kmまでの賃率 + 50km x 100kmまでの賃率 + 100km x 200kmまでの賃率+ 100km x 300kmまでの賃率 + 71.4km x 301km以上の賃率 = 運賃

列車種別ごとの計算過程については、下表を参照してください。

自強号(普通車)

距離に距離帯ごとの賃率を乗じ、合算した後、四捨五入をして求めた運賃額は、994元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ50.050.0100.0100.071.4371.4
賃率3.392.982.812.372.20 
金額169.500149.000281.000237.000157.080993.580

莒光号

同様にして求めた運賃額は、767元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ50.050.0100.0100.071.4371.4
賃率2.612.302.171.831.70 
金額130.500115.000217.000183.000121.380766.880

区間車

同様にして求めた運賃額は、640元です。

 -50km-100km-200km-300km301km-合計
営業キロ50.050.0100.0100.071.4371.4
賃率2.181.921.811.531.42 
金額109.00096.000181.000153.000101.388640.388

新自強号の「騰雲座艙」および自由席の運賃計算

EMU3000形で運行される新自強号の6号車には「騰雲座艙」と呼ばれる特別車両が連結されています(ビジネス車両とも呼ばれます)。最低乗車距離は50kmとされていて、その距離に満たない場合乗車券が発売されません。

「騰雲座艙」の運賃を求めるには、「騰雲座艙」に設定された運賃の加算率をさらに乗じます。ただし、加算率が公表されていないため、正確な運賃額については台鐵のウェブサイトに掲載された運賃の三角表を参照してください。

西部幹線を走る新自強号のうち一部の列車には、自由席が連結されています。座席が確保されない代わり、運賃は5%割引です。

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支線における運賃計算方

台鐵集集線濁水駅

主線から枝分かれする形で走るのが、支線です。支線には、主線とは異なる運賃計算方が採用されています。ここでは、支線内で完結する区間の運賃計算実例を1例挙げ、支線における運賃計算方をご説明します。

● 集集線 二水駅・車埕駅間

二水駅・車埕駅間の営業キロは、29.6kmです。10kmを超えるため、10km分の運賃に10kmを超えた分の運賃を加算します。10kmを超えた分の運賃を算出する式は、以下の通りです。

【10km分の運賃:a】
10km x 10kmまでの賃率2.18 = 21.8
【10kmを超えた分の運賃:b】
(29.6km – 10km) / 3.5 を整数に切り上げ → 6 6 x 7 = 42
【合計:a+b】
21.8 + 42 = 63.8 を四捨五入 → 64元

 -10km10km-合計
営業キロ10.019.629.6
賃率2.186 
金額21.84263.8

支線の運賃計算方は主線の運賃計算方とは考え方が全く異なることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

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乗車区間中異なる列車種別が含まれる場合の運賃計算方(異級票)

台鐵臺中駅

自強号が停車しない駅から区間車に乗車し、途中駅で自強号に乗り継ぐケースも考えられます。従来、そのようなケースでは列車種別ごとに乗車券を分割購入する必要がありました。

今回の運賃改定で「異級票(異級乗車券)」が導入されました。

区間車に乗車する区間と自強号および莒光号に乗車する区間の乗車券を、異級票として1枚の乗車券にまとめて購入可能です。

異級票のメリットは、乗車券1枚ごとに課せられていた最低乗車距離が1枚分で済むことです。区間車・自強号・莒光号に乗車する区間がそれぞれ10kmに満たないことが考えられますが、異級票を購入すれば全乗車区間で10kmを満たせばよいことになります。

全乗車区間が10km以下のケース

例えば、B駅からC駅を経てD駅まで乗車するケースを考えてみましょう。

台鐵異級票の買い方
  • B駅・C駅間6.5km:自強号に乗車
  • C駅・D駅間2.0km:区間車に乗車

全乗車区間を通して、最低乗車距離の10kmを満たしていません。

乗車券を分割して購入すると、それぞれ最低乗車距離の10km分の運賃がかかります(34元+22元=56元)全区間を通しで異級票として購入すれば、自強号10km分の運賃で済みます(34元)。

乗車区間が近距離であるほど、異級票を購入するメリットを享受できるのです。

全乗車区間が10kmを超えるケース

いまご説明したケースでは、A駅から旅行を開始し、B駅およびC駅を経て、D駅に向かうケースも考えられます。

台鐵異級票の買い方
  • A駅・B駅間3.0km:区間車に乗車
  • B駅・C駅間6.5km:自強号に乗車
  • C駅・D駅間2.0km:区間車に乗車

このケースでは、全区間の営業キロが11.5kmです。この距離は、最低乗車距離の10kmを超えています。

このケースにおいても、乗車券を分割すると、最低乗車距離10km分の運賃が3区間分かかります(22元+34元+22元=78元)。全区間を通しで異級票として購入すれば、最低乗車距離をクリア可能です(41元)。

乗車区間中主線と支線がともに含まれる場合の運賃計算方

台鐵瑞芳駅

乗車経路中に主線と支線の両方が含まれるケースも考えられます。

例えば、臺北駅から瑞芳駅を経て平渓線十分駅に向かうケースや、彰化駅から二水駅を経て集集線集集駅に向かうケースが考えられます。平渓線や集集線は、主線から枝分かれした支線です。

運賃改定前は単に全区間の営業キロを通算すればよかったのですが、今回の運賃改定によって主線と支線の運賃計算を分けることになりました。これは、今ご説明した異級票の運賃計算と全く同じ考え方です。

支線の乗車距離が10km以下のケース

支線の賃率が主線と同一のため、結果的に全区間で主線の賃率が適用されます。

● 臺北駅・十分駅間

  • 台北駅・三貂嶺駅間40.6km:主線区間車乗車
  • 三貂嶺駅・十分駅間6.4km:支線区間車乗車

下表の通り、主線と支線の合計運賃は103元です。

乗車区間営業キロ賃率運賃
臺北駅・三貂嶺駅間40.62.1888.508
三貂嶺駅・十分駅間6.42.1813.952
合計47.0 102.460

支線の乗車距離が10kmを超えるケース

支線の営業キロが10kmを超えると、運賃計算が複雑になります。

● 彰化駅・集集駅間

  • 彰化駅・二水駅間32.0km:主線区間車乗車
  • 二水駅・集集駅間20.0km:支線区間車乗車

下表の通り、主線と支線の運賃を合計すると、113元です。

乗車区間営業キロ賃率運賃賃率(支線10km-)運賃(支線10km-)合計
彰化駅・二水駅間32.02.1869.760  69.760
二水駅・集集駅間20.02.1821.80032142.800
合計52.0    112.560

まとめ

台鐵二水駅

2025年6月23日発売分から、臺湾鐵路における運賃が大幅に引き上げられました。これまで約30年間運賃が据え置かれてきたため、今回の改定による影響は大きなものとなっています。

今回の運賃改定の特徴は、遠距離逓減制と異級票(異級乗車券)の導入です。

乗車距離が50kmを超えた分から遠距離逓減制が適用になり、長距離になればなるほど1kmあたりの運賃単価(賃率)が低くなります。近距離ユーザーに比べ、遠距離ユーザーが受ける運賃引き上げの影響は相対的に小さかったと言えるでしょう。

区間車・莒光号・自強号間で列車を乗り継ぐ場合、これまで分割購入する必要があった乗車券が、異級票として全区間通しで購入できるようになりました。例えば区間車の乗車距離が10km以下である場合、運賃の節約効果が見込まれます。

支線にかかる運賃計算方が大きく変更されたため、主線と支線を乗り継ぐ場合の運賃計算が複雑になりました。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料

● 國營臺灣鐵路股份有限公司 ウェブサイト 2025.7閲覧

● 國營臺灣鐵路股份有限公司 客運票價及運雜費表 2025.4

● フォーカス台湾「台湾鉄道、あす値上げ 30年ぶり 短距離で値上げ幅大きく」2025.6.22付

当記事の改訂履歴

2025年7月04日:当サイト初稿

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