精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」)を持つ当事者に対する鉄道運賃の割引が、2025年4月から大幅に拡大しました。現在、JR各社をはじめ、多くの鉄道会社で運賃の割引を受けられます。
手帳所持者には、これまで長年にわたってJR運賃の割引が適用されていませんでした。それだけに、今回の動きは当事者にとって朗報です。
鉄道運賃・料金の障害者割引のしくみがどのようなものであるか、あるいはどのような条件でいくら割引されるのか、疑問ではないでしょうか。適用条件をしっかり押さえ、割引制度を適切に活用したいものです。

割引になるのは運賃のみで、特急料金等は割引になりません。手帳の等級によって種別が分かれ、割引のための適用条件が大きく異なります。無条件に割引を受けられるわけではないことに留意しましょう。
この記事では、精神障害者保健福祉手帳所持者に対して適用されるJR線および私鉄線の運賃割引制度について、概要やこれまでの経緯、適用条件や注意点を詳しくお話しします。
実は、筆者もこの手帳を所持する一当事者です。この記事が、当事者の皆さまが経済的に旅行を楽しむためのヒントになれば幸いです。
- 手帳には割引のための種別(第一種・第二種)が記載されること
- 付添人と同伴する第一種に対する割引が中心で、単独旅行では限定的なこと
- 片道101km以上の割引条件には連絡運輸となる他社線の区間が通算されること
運賃割引の対象が精神障害者にも全面的に拡大
鉄道運賃の精神障害者への割引拡大について、2024年4月11日付のニュースリリースで各鉄道会社から告知されました。
身体障害者手帳の所持者もしくは療育手帳の所持者には、鉄道運賃の割引制度が以前から存在します。しかし、精神障害者保健福祉手帳の所持者にはその制度が整備されず、長年にわたって運賃割引の対象から漏れていました。
2025年4月以降、身体障害者や知的障害者に加え、精神障害者も割引の対象に加わりました。JR各社の路線のみならず、多くの私鉄路線においても割引を受けられます。
ただし、障害者割引制度はとても複雑で、対象者や適用条件を容易に理解できるものではありません。利用する全区間で対象になるのではなく、細かな条件があることに留意する必要があります。
長年蚊帳の外に置かれていた精神障害者保健福祉手帳所持者にとっては望ましい流れであり、経済的に鉄道を利用できることはありがたいことです。
割引対象拡大が実現するまでの経緯

精神障害者保健福祉手帳所持者に対する鉄道運賃割引を当事者が勝ち取るまでには、これまで長年にわたる闘いがありました。
身体障害者手帳や療育手帳所持者に対する運賃割引制度は、旧国鉄時代に制定されたものがJRになってからもそのまま残っていました。しかし、精神障害者保健福祉手帳制度が生まれたのがJR発足後であったため、割引制度制定のタイミングを逸して現在に至る状況でした。
精神障害の当事者や支援者にとっては、どうして精神障害者だけが制度の網から漏れるのかという思いがありました。そのようなことで、長年にわたって国や鉄道会社に対して陳情されてきました。
流れが好転したのが、2019年に開かれた第198回通常国会でした。精神障害者に対する鉄道運賃割引を求める請願が、衆参両院の国土交通委員会で採択されたのです。これがきっかけで政府(国土交通省)が各鉄道会社に働きかけ、手帳所持者に対する割引が地方の第三セクターから徐々に浸透していきました。
しかし、JR各社はこの問題に非常に頑なで、一向に割引制度を導入しようとしませんでした。このことが、手帳所持者への運賃割引が広まらない一因でした。
鉄道運賃水準を決めるための国土交通省通達(収入原価算定要領)が2024年に改定され、運賃水準算出の柔軟化が図られました。そのような動きの中、今回の割引対象の拡大が進んだ形です。

それでは、具体的な割引内容を見ていきましょう!
鉄道運賃の障害者割引の概要:三障害が横並びに
今回、精神障害者保健福祉手帳の所持者が鉄道運賃の割引対象に含まれました。そのことで、従来から割引が適用されていた身体障害者および知的障害者にようやく追いついた形です。
三障害によって区別がなく、同一条件で割引の適用を受けられるようになったのは、とても望ましいことです。
障害者割引のしくみ・運賃の割引率
鉄道運賃の障害者割引制度は、JR各社が障害種別によって定めている規定がモデルです。ただし、全ての鉄道会社がJRと同じ規定に従うわけではなく、それぞれの会社が独自に内容を決めています。そのようなわけで、鉄道会社によって割引条件や内容が微妙に異なる結果になり、全体像を把握するのはとても困難です。
障害者割引については、手帳の所持者全員が同条件で適用されるわけではありません。障害等級・内容によって「第一種」および「第二種」の二つの種別に区分され、その区分によって割引内容が決まります。
障害者割引の割引率に限っては全ての鉄道会社で同一で、基本的には運賃部分(乗車券)が所定の5割引(半額)です。例えば、所定の金額が3,000円であれば、割引後の金額は1,500円になります。
定期乗車券の場合は鉄道会社によって差があり、5割引ではなく3割引とされることがあります。特急料金やグリーン料金は、割引になりません。
精神障害者割引が適用される主な鉄道会社と割引条件一覧
第三セクターの鉄道会社が経営する多くの路線においては、精神障害者に対しても運賃の割引が以前から適用されてきました。しかし、JR各社や大手私鉄においては割引の導入まで非常に時間がかかりました。
介護者・付添人が同伴する第一種に関しては、無条件に割引が適用されます。しかし、本人が一人だけで(単独で)乗車する場合、距離制限が設けられているために割引内容が限定的です。
手帳所持者に対する割引が適用される主な鉄道会社を、下表にまとめました(表中●は条件なし、〇は条件付)。
鉄道会社 | 付添人同伴 (第一種) | 単独 (第一種・第二種) | 単独距離制限 | 障害者用ICカード | 備考 |
JR北海道 | ● | 〇 | 単独101km | なし | |
JR東日本 | ● | 〇 | 単独101km | Suica(同伴のみ) | 連絡運輸も割引対象 |
JR東海 | ● | 〇 | 単独101km | なし | 連絡運輸も割引対象 |
JR西日本 | ● | 〇 | 単独101km | スルッとKANSAI(身体・知的同伴のみ) | 連絡運輸も割引対象 |
JR四国 | ● | 〇 | 単独101km | 同上 | 連絡運輸も割引対象 |
JR九州 | ● | 〇 | 単独101km | なし | 連絡運輸も割引対象 |
札幌市交通局 | ● | ● | 制限なし | SAPICA(身体・知的のみ) | 精神はSAPICA利用不可・在住者向け助成制度あり |
仙台市交通局 | ● | ● | 制限なし | icsca(制限なし) | 在住者向け無料乗車証あり |
東武鉄道 | ● | 〇 | 単独101km | PASMO(同伴のみ) | 連絡運輸も割引対象 |
西武鉄道 | ● | 〇 | 単独51km | 同上 | |
京成電鉄・北総鉄道 | ● | ● | 制限なし | 同上 | |
京王電鉄 | ● | × | 割引対象外 | 同上 | |
小田急電鉄 | ● | 〇 | 単独101km | 同上 | 単独は連絡運輸のみ(JR東海連絡) |
東急電鉄 | ● | × | 割引対象外 | 同上 | |
京浜急行電鉄 | ● | 〇 | 単独101km | 同上 | 単独は連絡運輸のみ(都営・京成3社連絡) |
相模鉄道 | ● | × | 割引対象外 | 同上 | |
東京メトロ | ● | 〇 | 単独101km | 同上 | 単独は連絡運輸のみ(小田急・箱根3社連絡) |
東京都交通局(地下鉄) | ● | × | 割引対象外 | 同上 | 在住者向け無料乗車証あり |
横浜市交通局(地下鉄) | ● | ● | 制限なし | 同上 | 一日券割引あり・在住者向け無料乗車証あり |
名古屋鉄道 | ● | 〇 | 単独101km | なし | manaca設定なし |
名古屋市交通局 | ● | ● | 制限なし | manaca(制限なし) | 在住者向け無料乗車証あり |
近畿日本鉄道 | ● | 〇 | 単独101km | スルッとKANSAI(身体・知的同伴のみ) | 連絡運輸も割引対象 |
南海電鉄 | ● | 〇 | 単独101km | 同上 | |
京阪電鉄 | ● | × | 割引対象外 | 同上 | |
阪急電鉄 | ● | 〇 | 単独101km | 同上 | |
阪神電鉄 | ● | × | 割引対象外 | 同上 | |
Osaka Metro | ● | × | 割引対象外 | 同上 | 在住者向け無料乗車証・割引証あり |
京都市交通局(地下鉄) | × | × | 割引対象外 | 同上 | 在住者向け無料乗車証あり |
神戸市交通局(地下鉄) | × | × | 割引対象外 | 同上 | 在住者向け無料乗車証あり |
西日本鉄道 | ● | ● | 制限なし | nimoca(制限なし) | |
福岡市交通局 | ● | ● | 制限なし | はやかけん(制限なし) | 在住者向け助成制度あり |
この一覧表のPDFファイル版を、以下のボタンからダウンロードいただけます!
障害者割引の受け方
鉄道運賃の障害者割引を受けるには、手帳の原本を持参し、駅で紙のきっぷ(普通乗車券)を買うのが原則です。
窓口で手帳を提示して割引専用のきっぷを購入するか、券売機で小児のきっぷを買って有人改札で手帳を提示するかは、鉄道会社によって異なります。駅で駅員に聞いて確認しましょう。
JR東日本・西日本では、ネット予約サービスで割引乗車券を購入できることになっています。ただし、操作方法が難しいため、駅できっぷを買うのが基本になりそうです。
介護者・付添人が同伴する第一種に限って、交通系ICカードの障害者用カード(Suica・PASMO)を利用できます。一部の事業者に限っては、条件なしに障害者用カードを持てる場合があります。
障害者割引が適用された普通乗車券の様式(JR)
手帳を提示し、割引で購入した普通乗車券の券面には、障害種別および同伴・単独の別によって印章が押されます。JRの駅窓口で購入したマルス券については、印字される形です。

これは、精神の第二種で片道101km以上乗車する場合の普通乗車券です。きっぷの右下に「健割」と表示されています。
参考までに、障害種別および同伴・単独の別によって押される印章は、以下の通りです。
手帳種別 | 本人単独 | 同伴 (本人) | 同伴 (付添人) |
精神 | 健 | 福 | 付 |
身体 | 身 | 障 | 介 |
知的 | 療 | 育 | 護 |
障害者割引に関する適用条件の詳細
割引条件が障害種別・程度によってそれぞれ定められていることを先ほど申し上げましたが、ここではその具体的な内容についてご説明します。
障害等級による区分
障害者手帳を持っていても、障がいの内容は人それぞれです。その状態に応じた割引を提供するのが障害者割引の基本と言えます。
鉄道運賃の障害者割引においては、以下の二つの区分に分かれます。精神障害者保健福祉手帳の場合、種別の表示がこれまでありませんでした。割引を受けるには、当該手帳に以下のいずれかが表示されていなければなりません。
第一種
精神障害者保健福祉手帳の場合、1級が第一種に該当します。常時の介護が必要な状態で、程度が重いです。より手厚い支援や合理的配慮が必要です。
手帳上には、旅客鉄道株式会社旅客運賃減額欄に「第一種」と表示されます。
第二種
同手帳の2級と3級が第二種に該当します。2級および3級は、程度に差があるものの自立して日常生活を送れる状態で、比較的軽度です。手厚い支援はそれほど必要ないため、どちらかといえば外出を促進するための経済的な措置という性格が強いです。
手帳上には、旅客鉄道株式会社旅客運賃減額欄に「第二種」と表示されます。

これは、筆者が所持する手帳です(第二種)。本来「旅客運賃減額」の表示は手帳の1ページ目になされるべきですが、過渡期ということで裏面にスタンプが押されています。
介護者・付添人が同伴する場合(第一種)
障害者割引の原則は、障がいを持った本人と介護者・付添人が同時に移動する場合に割引が適用されることです。本人と介護者であわせて一人分の運賃にしますよ、という考え方です。
したがって、障害者割引が適用されるのは、本人の他に介護者・付添人1人分のみです。本人と介護者が同一行動することが条件です。
第一種の区分が適用される場合および第二種の区分が適用される12歳未満である場合に限って、このパターンの割引を受けられます。
第一種に限っては、紙のきっぷ(普通乗車券)だけではなく、首都圏では交通系ICカード(Suica・PASMO)の障害者用カードを利用することもできます。普通乗車券については、以下のものを5割引で購入できます。
- 普通乗車券
- 障害者用回数乗車券
- 定期乗車券
乗車する距離に制限なく、全区間で運賃が5割引になります。
また、ほとんどすたれているものの、急行列車の乗車に必要な普通急行券も5割引で購入できるとされています。特急券やグリーン券は割引になりません。
本人が一人で利用する場合(単独旅行)
障がいを持った当事者本人が一人で鉄道を利用することを、実務上「単独旅行」と言います。介護者・付添人が同伴する上記のパターンとは、割引条件が異なります。
第一種の手帳を所持していても、介護者・付添人が同伴しない場合、こちらのパターンに該当します。
購入できる乗車券は、片道の営業キロが101km以上となる経路の普通乗車券のみです。日常利用する短距離の区間や定期券に割引が適用されないのが痛いところです。
専ら中長距離を移動するような場合に限って、運賃の割引を受けられる形です。特急券やグリーン券は割引になりませんが、料金が高額な新幹線を利用するハードルが下がると思います。
鉄道会社によっては、単独旅行であっても利用距離の制限がなく、全区間で運賃の割引を受けられるケースがあります。上記の一覧表の中では、京成電鉄(北総鉄道を含む)および西日本鉄道がこれに該当します。
単独旅行における距離制限に関する詳細や問題点について、以下の記事(↓)に詳しくまとめました。ぜひご一読ください。
片道101km以上の目的地はどの辺?
一人での移動で障害者割引を受けるためには、片道101km以上の営業キロが必要と申し上げました。一体、どのくらい遠いのでしょうか?

東京駅から片道で100kmを少しだけ超える駅には、以下のようなところがあります。
- 東海道本線:熱海駅(静岡県熱海市)
- 中央本線:勝沼ぶどう郷駅(山梨県甲州市)・甲府駅(山梨県甲府市)
- 高崎線:高崎駅(群馬県高崎市)
- 宇都宮線:宇都宮駅(栃木県宇都宮市)
- 常磐線:友部駅(茨城県笠間市)・水戸駅(茨城県水戸市)
- 総武本線:銚子駅(千葉県銚子市)
- 東武日光線:東武日光駅(栃木県日光市)
魚料理や餃子料理、ぶどう狩りを楽しめるような目的地です。いずれも思ったほど遠くなく、レクリエーションには適していると思います。東京駅から片道101km以上ある駅については、姉妹サイト「デジきっぷナビ」上の別記事(↓)をご一読ください。

JR線と他社線の連絡運輸が絡む場合の割引条件
単独旅行に関しては、片道の営業キロ101kmの利用が必要と申し上げました。ただし、この話には注意点があります。
鉄道会社1社あたり100kmを超えて乗車する必要がある、と誤解されがちなのです。実は、連絡運輸の設定がある区間を利用する場合、全区間の通算で100kmを超えれば運賃の割引が全区間で適用されます。
例えば、東京駅や横浜駅から伊豆急行線の各駅まで特急「踊り子」号を利用する場合や、JR中央本線と富士急行線を大月駅(山梨県大月市)で乗り継ぐような場合が考えられます。JR線の区間だけで片道101km以上の営業キロが必要なわけではなく、出発する駅から到着する駅まで片道101km以上の営業キロであれば大丈夫です。
鉄道会社ごとに別々に乗車券を買うのではなく、連絡する会社線の駅まで通しの乗車券を買えないか、確認するクセをつけると良いと思います。
連絡運輸が関係する場合の距離判定の考え方については、姉妹サイト「デジきっぷナビ」上の記事(↓)がとても詳しいです。マニアックな記事ですが、興味があるようでしたらぜひご一読ください。


ここからは、鉄道運賃の障害者割引が必要な根拠や課題について、筆者の意見を述べていきます!
精神障害者割引が実施されるべき根拠
国からの強い要請があるものの、各鉄道会社の持ち出しで実施される鉄道運賃の障害者割引。賛否両論がある中での割引制度導入には、以下のような根拠があると考えています。
法的な要請
国連では障害者権利条約が制定されていて、日本も批准しています。この条約においては、障がいを持った当事者が経済的に移動できる権利が定められています。
それに呼応して、日本国内では障害者基本法や障害者差別解消法が施行されています。障害者差別解消法によって、2024年4月以降民間企業でも合理的配慮の提供が義務化されました。精神障害者だけを蚊帳の外に置くわけにはいかないご時世となりました。
これらの条約や法律が、精神障害者に対する鉄道運賃の障害者割引の拡大の大きな引き金になったと考えます。
経済的な面からの要請
世間にあまり広く知られていないことですが、働く精神障害者は多いです。しかし、彼らの給与水準が低く、低収入に苦しむことが多いです。
三障害の中でも、就労に制限をあまりかける必要がない身体障害者の給与水準と、就労に配慮が必要な精神障害者の給与水準には、大きな差があります。
2023年(令和5年)に行われた障害者雇用実態調査(厚生労働省)の結果によれば、身体障害者の平均賃金が235,000円なのに対して、精神障害者では149,000円と大幅に低くなっています(2023年5月の月額)。
したがって、経済的に苦しい精神障害者にこそ、鉄道運賃の割引という形で経済的な支援を施すことには、十分な合理性があります。
精神障害者割引の課題~精神障害者への拡大を素直に喜べるか~
精神障害者にとって不可欠な鉄道運賃の割引。従来からの身体・知的障害者に加え、精神障害者にもその割引制度が新たに拡大される形です。三障害が同一線上に立ったのは望ましい姿であり、一当事者としては歓迎したいことです。
しかし、手放しで喜んでもいいのでしょうか?
割引制度が十分なものであるか
今回の制度導入では、いま申し上げた通り、三障害が同一線上に立つことが主眼になっています。身体・知的を含め、割引内容については大きくメスが入れられていません。
単独旅行の場合に片道の営業キロが101km以上必要なこと、定期乗車券の割引がないことなど、決して十分とはいえません。
企業や作業所へ通勤するための定期乗車券の割引を行うことで、障害者の就労(障害者雇用・福祉的就労)を促進する効果があるのではないでしょうか。
日常生活の中で障害者割引制度が十分に活用されるかということを、今回の導入では十分に検討されたとは言いがたいように思います。
精神障害者に批判的な風潮について
この件に関しては、ネット上では批判的かつ差別的なコメントが多いです。軽度の精神障害者は見た目で障害が分からないため、このような施策が一部の人への優遇であると誤解されます。このような割引制度があるべきではないというのです。
このような風潮がある原因の一つには、障害者割引の原資が国からの予算ではなく、鉄道会社の持ち出しであることが考えられます。JR各社も、障害者割引は国の施策であり、国が主体になるべきであると主張し続けてきました。
このコストを総括原価に算定できるようになったことから最終的に鉄道会社側が折れて、制度の実施にこぎつけられたという見方があります。
鉄道会社が原資を負担しなくてはならない新制度に対して批判的な意見には、一理あります。国が予算措置を行い、鉄道会社への補助金を割引のための原資として交付すれば合理的であったのではないかと考えます。いわば、公助です。
一方で、各鉄道会社は「株式会社」という営利企業です。企業である以上利益を出さなければなりませんが、同時に企業としての社会的責任が求められています。共助の観点から鉄道会社が自発的に割引を行うことも正しいことで、企業の経営姿勢を社会にアピールできるチャンスに違いありません。
当事者としては、割引制度が拡大することを謙虚に受け止めたいです。
まとめ

精神障害者に関して長年実現されなかった鉄道運賃の割引制度が、2025年4月にようやく拡大されました。
鉄道運賃の障害者割引は、障害の程度によって条件や内容が異なります。JR各社の規定がひな形であるものの、各鉄道会社が独自に内容を定めるために全体像を把握するのは困難なことです。
精神障害者保健福祉手帳の等級が1級の場合「第一種」、2級もしくは3級の場合「第二種」と区分されます。
第一種では乗車する区間や距離を問わず割引を受けられますが、介護者が付き添う場合に限られます。
第一種・第二種を問わず、本人が一人で利用する場合(単独旅行)は乗車する営業キロが片道101km以上となる必要があります。101km以上乗車することは日常生活ではあまり考えられないため、割引を受ける機会は限られます。
距離制限に関しては、鉄道会社1社あたり100kmを超える必要があると誤解されがちです。ただし、連絡運輸の設定がある場合は鉄道会社をまたいだ全区間で100kmを超えれば割引の対象になります。
今回割引の拡大が実現したのは、国土交通省(政府)だけではなく、多くの関係者の尽力があってこそです。当事者として、深く感謝したいと思います。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します(厚生労働省)2024.3.27付
● JR東日本ニュースリリース「精神障害者割引制度の導入について」2024.4.11付
● 国土交通省ウェブサイト「鉄道の運賃・料金について」2024.4閲覧
● 旅客鉄道株式会社 精神障害者旅客運賃割引規則 2025.4閲覧
当記事の改訂履歴
2025年4月10日:初稿 修正
2025年4月08日:初稿 再構成
2025年02月25日:初稿 修正
2025年02月08日:初稿 修正
2025年01月10日:初稿 修正
2024年12月29日:初稿 修正
2024年12月28日:当サイト初稿
2024年4月13日:前サイト初稿
コメント
精神障害者手帳を持つ妻に同行して、娘に会いに、恵庭駅から名古屋駅まで全線新幹線を使って6月3日17時頃名古屋駅に着きたい。帰りは6月16日午前9時頃名古屋駅を発って真っ直ぐ恵庭に帰りたい。割引があると聞きますがいくらかかりますか?
個別にメールにてご連絡差し上げました!
分かりやすくまとめていただきありがとうございます。
阪急電車の単独乗車ですが、100キロを超える連絡乗車券で割引が適用されました。
具体的に言うと京都河原町~新開地~有馬温泉です。
ご参考までに。